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「つまり、カレンが俺の傍について、お前は俺の傍にはいられなくなるから、言いづらかったと?」 「・・・うん」 下手な勘違いでカレンとくっつけられてはたまらないと、スザクは正直にルルーシュに話した。話された内容が意外だったらしく、ルルーシュは呆れたように嘆息した。 「カレンを傍にという事は、この役立たずの体を彼女に世話させると言う事か?」 「役立たずって、そんな言い方しないでよ!」 ルルーシュが平然と言い放った自虐的な言葉に、スザクは伏せていた顔をガバリと上げ、否定した。 「本当の事だろう?何もできないくせに口だけ達者な、ただの役立たずだ」 何をいまさらとルルーシュは言った。 スザクはそれが嘘偽りない本心だと悟り、違う!と叫びながら、首を横に振った。 「違う!違うよ!そんな風に言わないで!」 「違わない。で?そんな俺の世話を、幼い女の子であるカレンがするのか?」 男のお前でさえ、かなり苦労していると言うのに。 ルルーシュが呆れたようにいうと、スザクは間の抜けた声を上げた。 「・・・え?」 「カレンを傍に置いて、お前は離れるんだろう?そういう事じゃないのか?」 「それは、そう・・・だけど」 ルルーシュは偽りの剣よりも本当の剣を選ぶ。 信用できない者より信用できる者を置く。 だからカレンが来た以上、スザクではなくカレンを傍に置くことになる。 それなのにどうして疑問形で聞いてくるのだろう? ・・・何だろう。会話に違和感がある気がする。 「こんな体になった時点である程度の羞恥心は捨てたとはいえ、カレンに任せるのはな・・・お前が離れると言うなら、咲世子に頼むか」 それともナナリーに咲世子をつけジェレミアに頼むか。 出来る事ならこの体に関わる人間は増やしたくはないから、それが最善だろう。 何より女性に任せたくはない。 よし、ジェレミアと咲世子を呼んで話をしよう。 スザクはそこまで聞いて、やはり会話に致命的なズレがあると、慌てて声を上げた。 「違うよ、僕は君から離れたいなんて、思ってないよ!」 「何を言ってるんだ?お前が今、カレンを自分の代わりに置くといったじゃないか。・・・まあ介護疲れが出たのだろう、俺の事はもういいから少し休め」 「だ、駄目!僕が、僕がやるから!全然疲れてないから!それに僕、カレンと交替したいなんて言ってないからね!」 「言っただろう」 「言ってない!ただ、君は僕よりカレンがいいんだと・・・」 スザクが口ごもったので、ルルーシュは首を傾げた。 スザクよりカレンがいい?どういう意味だろうか。 男の手で世話をされるより女の手で世話のほうが男としては嬉しいだろう、と言う事なのか?だがそれならカレンに限らずラクシャータも咲世子も、ナナリーも千葉も女なのだが、どうしてカレン限定なのだろう。同年齢だからか? 「どうしてそう考えるのかは解らないが、10歳の女の子に介護なんて任せるわけないだろう。・・・まあ、それは本来お前にも言えるんだが」 スザクがいくら体力馬鹿とはいえ10歳の少年だ。 小さな体で一生懸命世話をしているが、常々無理をさせていると思っていた。 スザクが人の手に任せたいと考えたのはいい傾向だ。 そんな納得顔のルルーシュに、ちょっと待ってとスザクはルルーシュの手をぎゅっと握った。 「僕は今まで通り君の側にいたい。君の世話も全然大変じゃないよ。だから、僕に今迄通り世話をさせて」 懇願するような声音に、ルルーシュは意味が解らず眉を寄せた。 「今まで通りでいいなら、それでいいだろう?」 むしろさっき咲世子の申し出を断ったのは誰だ。今朝ジェレミアがたまには休んだ方がいいから、今日は変わると言った申し出を拒否したのは誰だ。 「・・・いいの?本当に、僕が傍にいて」 カレンが来たのに僕でいいの? 茫然とした声で言うスザクに、ルルーシュは首を傾げた。 自分が世話をすると言ったり、カレンを傍に着けると言ったり、言っている事がさっきから二転三転している。これも皆が言う壊れた心の影響なのだろうか? 「駄目な理由があるのか?」 「ない!何もない!君がいいならいいんだ。僕がずっと傍にいるから、僕が君を守るから安心して!」 「・・・ああ、よろしく頼む。だが、疲れたらちゃんと言うんだぞ?ジェレミア達が居るんだし、何ならここでは一切役に立たないだろう玉城に任せても」 「駄目!僕がやるから、君の事は全部僕がやるから!!」 先ほどまでの暗く泣きそうな声音から一変し、明るく元気な声でスザクは言った。 どうも子供の体のせいかスザクの感情の起伏も激しい。 急に落ち込んだかと思えばこうして一気に元気になる。 情緒が不安定なのだろうか。 それともこれも・・・? そんな変化に戸惑いを感じつつも、にこにこと明るい笑顔で「あ、話しすぎちゃったね、少し休もうねルルーシュ」と、言ってきたスザクに安堵した。 子守歌を歌ってあげるよ、とルルーシュの胸をやさしくポンポンと叩きながら聞きなれない日本の子守歌を謳うスザクにはもう暗い影は見えなかった。 掛かってきた一本の電話。 携帯に表示された名前に思わず眉を寄せた。今の自分を取り巻いている異常事態を考えるなら、掛けてくる可能性はあるのかと、数コール後通話を押した。 「はぁい。あんたから連絡なんて初めてよねぇ。私に何か用かしら、プリン伯爵?」 それは嘗ての時代であの二人と共に世界を手玉に取った科学者のあだ名。 『ラクシャータ、その呼び方止めてくれないかなぁ。それよりも、君今どこにいるのさ』 大学のゼミ急にやめたのはどうしてなのかなぁ? 探るような問いかけに私は苦笑する。 そんな事気にする男でも、連絡をしてくる男でもないはずなのに。 「さあ?ここが何処か当てて御覧なさい。ヒントは私の可愛い赤い娘の所よ」 『あはぁ。なるほどねぇ。実は僕も近々そっちに行くんだ。セシル君もつれてね。僕の大切な白い男の子、そっちにいたりする?』 赤い娘が何かを知り、白い男の子と口に出来るのはあの時代に生きた者だけ。 あの白い男の子の手足を、鎧を作れる唯一の者。 「ええ、白も黒も揃ってるわよ?着いたら連絡しなさい、ここ解りにくいから」 『恩に着るよラクシャータ』 |